幻想的なマジックアワーのひと時に現れた1匹の猫→冬なのに川へ向かって歩いていく理由とは?

人に慣れていない野良猫は警戒心が強いため、じっと眺めていたり近づくのが難しい反面、時には自然の風景と一体になった美しい姿を見られることもあります。

写真家の「うたかたえれじぃ」さんが、ある冬の日の日没後、東京湾に注ぐ荒川の河口で撮影した写真も、そんな猫の姿を捉えた一枚です。

砂浜を歩く猫が水鏡に反射した風景 by うたかたえれじぃ
実際の写真(提供:うたかたえれじぃさん)

満潮で水位が上がって浅瀬になった砂地を、川の中心へ向かって悠然と歩いてゆく一匹の黒白猫。水が溜まった足元は鏡のように反射して、猫の姿がくっきりと写り込んでいるほか、奥の方の水面は薄っすらと夕焼け色に染まり、幻想的な風景が浮かび上がっています。

この日、ライフワークにしている地域猫をいつものように撮っていた撮影者さん。写真の光景を見て「マジックアワーに浮かび上がるリフレクションが美しい」と感じたと言います。

マジックアワーとは、美しい朝焼けや夕焼けが見られる数十分ほどの時間帯を指す撮影用語で、太陽は無いけれど空が薄っすらと明るい状態。一日の中で最も空の色が変化する時間帯で、魔法のように美しい空が見られることからそのように呼ばれていて、その空がきれいな水鏡に反射した瞬間を撮影したのが冒頭のワンシーン。

幸いにもこの日は風の弱い日だったそうですが、風が強いと波風が立ってしまい、これほど美しい反射にはならないのだとか。

それにしても、この猫ちゃんはなぜ川の方へ向かって歩いているのでしょうか。そもそも猫は水嫌いの子が多いですし、たとえ平気な子であっても、冬の寒い時期は足が濡れることを避けそうな気がします。

しかしその行動には、外で暮らす猫ならではの理由が隠されていました。と言うのも、この辺りでは満潮時になると浅瀬に魚が打ち上げられることがあるのだそうで、実は獲物が落ちていないか猫が探しにやってきたところを捉えた場面。その様子を見ていた撮影者さんは「河川敷に生きる猫達の知恵を感じました。」と撮影時の心境を振り返ってくれました。

一方、猫ちゃんの方は周囲に魚が見当たらなかったのか、この後、足が濡れることもお構いなしに、別の場所へパトロールに出かけて行ったと言います。

撮影者さんが猫の写真を撮り始めたのは、世間でよく見かける猫の可愛らしい写真ではなく、写真表現としての猫写真を追求しているブログを見て衝撃を受け「自分も撮りたい!」と思ったのがきっかけ。

過酷な自然環境の中で強く気高く生きる川猫を中心に写真を撮り続け、これまでにさまざまなフォトコンテンストで受賞。2022年にはAdobe『猫フォト/ムービーコンテスト』のフォト部門で最優秀賞に選出されています。

朝焼け・夕焼けを背景に河川敷で振り返る猫 by うたかたえれじぃ
野良猫を撮るにはコツがある?

そんな撮影者さんに、野良猫を撮る時に意識していることを聞いてみると、「猫を撮影する時は時間をかけて観察し、猫に「そこにいてもいいよ」と許されるのを待ちます。そうすれば猫はこちらを気にすることなく伸び伸びと躍動してくれます。」と、待ちの姿勢を大切にしている様子。

また、野良猫を撮影する理由についても以下のように語ってくれました。

「猫を撮影するようになってから、これまで知ることの無かった猫達の新しい一面を知り、その生き様に魅了されました。近年、猫の室内飼いや保護猫活動、TNRの普及により猫と人間との関わり方は大きく変わりました。かつて当たり前だった猫の居る景色は近い将来見られなくなるでしょう。今を生きる猫達の記録を写真という形でいつまでも記憶に残していきたいと思います。」

夜の都会の海で佇む猫 by うたかたえれじぃ
今しか見られない光景かも

そうした作品の一部は、2月22日から横浜で開催される「ねこ写真展 @CP+2024~今を生きる猫たちのキオク・キロク~」でも展示される予定となっています。

取材協力:うたかたえれじぃ@カメコと猫写真(@utakataelegy)さん

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