「4kgの猫を担いだまま凍結路面を歩けますか?」北海道の牧場が求職者に望む特殊なスキル→その理由を聞いてみた

猫のお世話をする人に求められる素養は必ずしも全国共通という訳ではありません。その土地土地の気候や風習などによって時には特別な能力が必要になることもあります。

北海道南部に位置する浦河町で競走馬の生産を営む富菜(とみな)牧場。

富菜牧場で暮らしている三毛猫のミケちゃん
三毛猫ちゃんがいるのニャ(写真提供:富菜牧場)

そのXアカウント(@tominafarm)が今月投稿した動画は、まさにそんな地域特有の事情を感じさせるものでした。投稿文に書かれていたのは「4kgの猫を担いだまま北の大地のガチガチ凍結路面を難なく歩ける人材じゃないと採用できません」という文言。

牧場のスタッフが猫を担ぐとは一体どのような状況なのでしょうか。

富菜牧場の富菜さんに詳しいお話を聞いてみると、もともと同牧場ではミケちゃんという猫を飼っていて、人間に抱っこされたまま運ばれる様子を「タクシー利用」と称してよくSNSに投稿しているのだとか。そして、それを見たネコ好きなユーザーからは「自分もやりたい!」といったコメントが寄せられることもしばしばあると言います。

人間が猫を抱っこしている姿は、一見するとほのぼのとした触れ合いのようにも見えますが、「肩に乗せる時の絶妙なバランスや、大自然北海道の厳しい気候の変化にも順応できなければ務まらない、難しい仕事だと思っております。」と語る富菜さん。

初心者がやろうとした場合の危険性については「凍結路面に慣れていない人だと手ぶらでも歩けないと思います。そこにある程度の重さがあり、なおかつ人間の意思に反して動く生き物が乗っているので、体幹がしっかりしていないと転ぶこと必須です。」と指摘。簡単にできるようなコツはなく、時間をかけて慣れていくしかないのだそう。

雪が積もった冬の富菜牧場で過ごす競走馬
冬は厳しい寒さの富菜牧場

しかし、路面が凍結しているのになぜ猫ちゃんを抱っこするのか、傍から見ると気になるところではあります。

その点について聞いてみると、地面が凍っているからなのか面倒くさいのか、ミケちゃんは「人間に抱っこされて家まで帰りたい」という強い意志を持っている猫ちゃんなのだそうで、人間の方から率先して抱っこするというよりミケちゃんの要望に応じる形で抱っこしている状況。その代わり、抱っこしている間は腕の中で大人しく収まってくれていると言います。

そんなミケちゃんは推定6歳の女の子。SNSの投稿ではドヤ顔で抱っこされていることが多いけれど、実はかなり鈍くさい猫ちゃんなのだとか。

競走馬牧場の柵から降りようとする三毛猫
このくらいなら大丈夫

富菜牧場にやってきたのは今から5年ほど前の冬のこと。ある日突然牧場に姿を現して、居着いているかのようにしばらく過ごしていたけれど、猫風邪を引いてしまったことから保護することに。後々調べると近所の牧場で生まれた猫ちゃんであることが判明するものの、全快した後も元の場所へは帰ろうとせず、富菜さんのお家にいて現在に至るそうです。

ミケちゃんの朝は早く毎日5時ごろにスタート。朝食はその日の気分によって食べたり食べなかったりで、外に出ると牧場内のナワバリを周りながらパトロール。トイレを済ませた後は、やる気があればネズミやスズメを捕るため張り込みをしていることも。

そして家に帰りたくなったら人間に抱っこをせがんで帰宅し、夕飯を食べてゴロゴロしたり夜の巡回に出かけたりした後は、ベッドかソファで就寝するのが大体の行動パターンなのだとか。

競走馬牧場の藁の上でくつごる三毛猫
休憩中のミケちゃん

 

富菜牧場の中をパトロールする三毛猫のミケちゃん
パトロールは欠かせニャい

敷地内にいるお馬さんとは干渉することなく、自由気ままに暮らしているというミケちゃん。牧場にとってはどのような存在なのでしょうか?

富菜さんに聞いてみると「今まで牧場では犬しか飼ったことがなく、猫の生態についてはあまりよくわかっていませんでした。人づてに猫は自由気ままでプライドが高い、と聞いていましたが、保護当時飼っていた犬達に感化されたのかミケは名前を呼ばれたらダッシュで来るし、牧場のパトロールの仕事にも精力的です(たまにサボってますが)。」と、まるでワンちゃんのような存在感であることを告白。

今後については「人間をタクシー代わりにしているのは労働の対価なのだと思って、これからも牧場の仕事を担うパートナーとして良い関係を築いていきたいです。」と微笑ましいコメントを寄せてくれました。

取材協力:富菜牧場(@tominafarm)さん

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