ネコの寿命を伸ばす治療法を開発!その道のりを研究者がつづった書籍「猫が30歳まで生きる日」

猫の寿命を大幅に伸ばす可能性を秘めた発見について、研究者本人が綴った書籍『猫が30歳まで生きる日~治せなかった病気に打ち克つタンパク質「AIM」の発見』が8月4日に刊行されます。

書籍『猫が30歳まで生きる日~治せなかった病気に打ち克つタンパク質「AIM」の発見』の表紙イメージ
表紙の猫写真は岩合光昭氏が撮影

腎臓は血液中の老廃物をろ過し、尿として身体から排出する機能を持った重要な器官。

しかしネコは腎臓の中の尿の通り道にゴミ(細胞の死骸)が詰まりやすい動物で、それが原因となって腎臓病を発症。

腎臓病は腎機能が徐々に低下して食欲不振や体重減少、多飲多尿、嘔吐など、さまざまな症状が現れる病気で、原因が解明されていないことから治療をしても回復することが難しく、病状が進行した慢性腎臓病(腎不全)は高齢猫の死因1位にもあげられる病気として知られています。

飼い猫・茶トラ猫のイメージ写真

「なぜ、たくさんのネコが腎臓病になるのか?」
獣医学の世界では長らく謎とされてきましたが、その解明に取り組んでいるのが、東京大学大学院の宮崎徹(みやざき とおる)教授。

同教授はスイスのバーゼル免疫学研究所在籍時に、人間の血液中に高い濃度で含まれているタンパク質を発見して「AIM(apoptosis inhibitor of macrophage)」と命名。

AIMは体内のゴミにラベルのように張り付き、異物を食べる免疫細胞に「ここにゴミがある」ということを知らせる役割があり、体内のゴミを効率よく食べさせて掃除させる機能があるといいます。

しかし、猫をはじめトラやライオン、ヒョウ、チーターなどの動物はAIMによるラベリングがほとんど機能していないため、尿細管に詰まっているデブリ(ゴミ)を掃除することができず病状は悪化する一方。

そのため、ネコ科動物のほとんどが重篤な腎臓病にかかってしまい、それが原因で亡くなってしまうのだとか。

宮崎教授の研究グループではこのAIMを使った治療法を探すべく、AIMをネコ型に変えたマウスで正常に機能するAIMを注入したところ、尿細管の詰まりは劇的に解消され、腎機能が速やかに改善して致死率も著しく低下することが判明。

多くのネコでも腎臓病の進行を止められる効果を確認したほか、正常に機能するAIMを若い時期からネコに投与すれば腎臓病にはかからず、従来よりも長生きできるようになると考えられています。

寝たきりだったのにAIM投与後に起き上がり動き回ったネコ
寝たきりで「余命1週間」と宣告されるも、AIM投与後に起き上がったネコ

こうした「体内のゴミを掃除する機能の強化」というAIMの役割は、ヒト(人間)にも応用する研究が進行中。

日本では成人の8人に1人が患者とされる慢性腎臓病はネコ同様に、いちど腎臓病になってしまったらいずれは腎不全に至る「治らない病気」と言われていますが、ネコも人間も腎臓病になる経過は同じ。

その治療に向けた研究は国立研究開発法人の開発支援事業に採択されており、5年以内にヒト用の腎臓病治療薬の治験を始めることを目指しています。

一見すると全く違う病気でも「自分の体から出るゴミが溜まる」という共通のメカニズムがあり、AIMはそこに対して効果があることから、腎臓病以外の病気でも研究が進んでおり、例えばアルツハイマー型認知症の場合は「アミロイドβ」というタンパク質が脳内に異常蓄積することが引き金となって発症。

AIMはこのタンパク質に対しても「掃除すべきゴミ」として検知できると考えられているほか、肝臓がん、メタボリックシンドロームなど、ヒトの多くの病気にも活用が期待されています。

本書は、そんなヒトとネコの寿命を大きく変える可能性を秘めた「AIM」という分子の発見と、その実用化に向かうまでの長い道のりが綴られています。

<目次>
はじめに――ヒトの医者、ネコの薬に挑む
序 章 「余命1週間」からの復活
第1章 臨床から基礎医学の世界へ
第2章 研究の修行時代
第3章 謎のタンパク質「AIM」との出会い
第4章 〈治せない病気〉とAIM
第5章 AIMによる〝ゴミ掃除〟と腎臓病
第6章 ネコの腎臓病とAIM
第7章 腎臓病のネコにAIMを投与
第8章 ネコ薬の開発
第9章 臨床試験に向けて
第10章 新型コロナウイルスとAIM

猫に処方すれば腎臓病の予防になるだけでなく、寿命が大幅に延びて現在の平均寿命の2倍、約30歳まで生きることも可能であるとされるAIM。何より猫が腎臓病で長く苦しまなくて済むようになるというのは、飼い主さんにとって喜ばしいことと言えるでしょう。

出版元の時事通信社によると、本書を通じて「できるだけ多くの方々にAIMがどんな分子で、その活用がヒトとネコの未来をどのように変えるのかを知っていただきたい」としています。

書名:猫が30歳まで生きる日―治せなかった病気に打ち克つタンパク質「AIM」の発見
著者:宮崎徹
頁数:244ページ
出版:時事通信社
発売:2021年8月4日

<参考>
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